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The Designable Workers

井垣孝之(NPO法人GeniusRoots代表理事/弁護士)の個人ブログです。会社員・起業の両方の良さを持つ新しいワークスタイルを創る試行錯誤を記録します。

人生100年時代=長寿が不幸になる時代の人生戦略(1)

リンダ・グラットンの「LIFE SHIFT」という本が話題になったことで、「人生100年時代」という言葉が急速に広まった感があります。

 ところが、日本における「人生100年時代」がどれだけ過酷なものかという認識はあまり共有されていないようなので、今日はこの点について簡単にまとめてみようと思います。

LIFE SHIFT(ライフ・シフト)

LIFE SHIFT(ライフ・シフト)

 

 

 

あなたは、あと何年生きないといけないかを認識していますか?

平均余命と寿命中位数について

みなさんは、「平均寿命」という言葉はご存知かと思います。
平均寿命とは、「0歳時点における平均余命」のことです。
平均余命とは、「ある年齢以降に生存する年数の平均」のことです。

ところで、「寿命中位数」という言葉はご存知でしょうか?
寿命中位数とは、生命表上で、出生者のうちちょうど半数が生存し、半数が死亡すると期待される年数」のことを言います。つまり、自分と同年齢の人の生存確率が50%になる年齢(以下「50%生存年齢」ということがあります)ということです。
「学校の同じ学年の人のちょうど半分がまだ生き残っている年齢」、と理解してください。

平均余命と寿命中位数は、ざっくりと前者が平均、後者が中央値であると理解しておいてよいと思います。*1

「LIFE SHIFT」において、著者はたびたび「~年生まれの50%は、○歳まで生きる」という表現を用いていることから、おそらく平均寿命ではなく寿命中位数を前提に議論しているものと考えられますので、以後寿命中位数(50%生存年齢)を中心に検討しましょう。

 

 毎年、厚労省が平均余命を記載した簡易生命表を発表していますが、実は寿命中位数についても発表しています。平成27年簡易生命表の概況

寿命中位数と平均寿命の年次推移という図表のうち、過去50年の寿命中位数及び平均寿命の推移の図表を少しわかりやすく作り変えてみました(図表1)。

【図表1】過去50年の寿命中位数及び平均寿命の推移

 f:id:fly-higher:20170326203102p:plain


まず、「平均寿命より寿命中位数の方が長い」ということに気づくと思います。ここでひとつ押さえておくべきことは、「平均寿命をベースに人生設計をすると、人生を短く見積もりすぎてしまう」ということです。


次に図表1の見方です。特に「50%生存年数」*2の部分に注目してください。

 たとえば、2017年現在で22歳の男性は、50%の確率であと57.49年(79.49歳まで)、女性はあと63.73年(85.73歳まで)ほど生きることになりそうです。同様に32歳の男性はあと46.06年(78.06歳まで)、女性は51.38年(83.38歳まで)ですね。

今の20代から30代の方は、2分の1の確率であと半世紀程度は生きるということですから、「まだ人生の残りは長いなあ」と思ったかもしれません。

ところが、簡易生命表に基づく寿命中位数や平均寿命の計算方法にはトラップがあるため、以上の数値を鵜呑みにすると、大幅に見通しを誤ります。


簡易生命表のトラップ

 簡易生命表は、「ある年における我が国の死亡状況が今後変化しない」という仮定を置いています。
したがって、「今後、年間の死亡者数が減少すれば、それだけ寿命中位数も平均寿命も伸びる」という点に注意が必要です。

図表1を見ればわかりますが、過去50年で寿命中位数は男性が11.76年、女性が12.75年も伸びています。医療水準が向上すればそれだけ寿命は伸びますから、これからも伸び続けるでしょう。iPS細胞の研究が進んで、人間の内臓の置き換えみたいなことができるようになると、今まで以上のペースで寿命が伸びるかもしれません。

そこで、過去50年と同じようなペースで推移したとすると、向こう50年の寿命中位数と平均寿命はどうなるかという図表を作ってみました(図表2)

【図表2】 2020年以降の寿命中位数及び平均寿命の推移

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本来の読み方であれば、たとえば「2045年に生まれた男性の寿命中位数は90.91歳、女性は98.74歳」ということになります。

 

今後の寿命の伸びを簡易生命表に織り込んでみる

しかし、これから寿命は伸びていく可能性が高いわけですから、かなり乱暴ではありますが、図表2の2020年以降の数値を「○年になった時点の自分の50%生存年齢はこれくらいになっている」と置き換えて考えてみることにしましょう。

たとえば、現在22歳の男性であれば、2060年(65歳)になった時点においては、94.32歳が50%生存年齢、現在22歳の女性であれば、102.72歳が50%生存年齢になっている、ということです。

 現在22歳の方にとっては、「65歳なんてもうずいぶんお年寄りだなあ」という感覚でしょうが、自分があと43年生きて65歳になってから、さらに30年以上生きなければならない可能性が高いわけです。

2017年現在における65歳は「まだまだ若い」というような感覚になりつつありますが、2060年時点における65歳は、「まだまだ若い」どころか「これからまだ頑張らないといけない年齢」という状態になっているのではないでしょうか。

 

試しに各年齢別の50%生存年齢までの残り年数を出してみました(図表3)。

 

【図表3】年齢別の50%生存年齢までの残り年数

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ご自分の現在の年齢・性別の列の、黄色いマーカーが引かれているところを見てください。そこが今から約50年後のあなたの50%生存年齢までの残り年数です。

たとえば22歳男性について見ると、「今から約50年後の70歳の時点で、50%生存年齢までまだ25.46年残っている」ということになります。


最初に、現時点の簡易生命表を前提にすると今の20代から30代の方は、2分の1の確率であと半世紀程度は生きてしまうと述べました。
しかし、今後の寿命の伸びを加味すると、2分の1の確率であと半世紀どころか75年も生きる必要があり、70歳になってもまだあと25年も生きないといけない(しかも2分の1の確率でもっと生きないといけない)ということです。

22歳女性はさらに深刻です。104歳の時点でもまだ半分が生存しているわけですから、50代がようやく人生の折り返し地点ということになるでしょう。


なお、以上の仮定は非常に乱暴なものですが、「LIFE SHIFT」では1998年生まれのジェーン(2017年時点で19歳の女性)は「100年以上生きる可能性が高い」(同書60頁)という前提になっているため、さほど荒唐無稽な結果ではないようです(ただし、40代以降はちょっとオーバーかもしれません)。

 

あと何年生きないといけないかを認識したあなたは、これからどうしますか?

「LIFE SHIFT」で書かれているとおり、少なくとも今の20代30代は、今の高齢者が前提としてきた約20年の学生生活、約40年の社会人生活、60~65歳で定年を迎えてあと残り約10年の引退生活という3ステージで人生設計をしていると、確実に破綻します。

なぜなら、今の20代30代は50%以上の確率で95歳以上まで生きることになるため、引退生活が30年以上あることになるからです。長生きしてしまうとその分生活費を稼がないといけないわけですが、20代30代の人たちは年金があてにできる世代ではありません。必然的に、社会人生活を伸ばして引退後の生活費を稼ぐことになります。

これまで述べてきたことを踏まえると、20代30代は少なくとも80代まで、つまり約60年は働き続けなければ、引退生活に入ることは難しくなります「LIFE SHIFT」でもそのような結論になっています)。

それだけでなく、これから新しい技術が現在の仕事そのものを変容させてしまうことがほぼ確定しているわけですから、20代30代は非常に不透明な未来を約60年もの間走り続けなければならないということです。

 

かつて、長寿であることは無条件で良いこととされていました。今もお祝いの対象です。しかし、今の20代30代にとっては手放しで長寿を褒め称える時代ではなく、むしろ長寿は、若い頃から真剣に準備しなければ生きながらえることができないリスクになってしまったといえます。


これまで20代30代を中心に述べてきましたが、NPO法人GeniusRootsに将来の働き方についてご相談いただく方のお話を伺っていると、今の40代50代のギリギリ逃げ切れない世代はかなり危機的状況にあると感じています。なぜなら、この世代はかなり転職することが難しいため、一度何らかの事情で(たとえば介護とかちょっとしたミスをしたとか)会社組織から離れると、もう従来のように稼ぐことができない可能性が高いからです。

ではこれから人生設計をする際に、どんなことを考えるべきなのか?

次回はその点を中心に述べてみたいと思います。

LIFE SHIFT(ライフ・シフト)

LIFE SHIFT(ライフ・シフト)

 

 

*1:各定義については以下を参照。

http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life10/sankou01.html

 

*2:寿命中位数から2017年時点の年齢を引いたもの。50%の確率で生きていられる残り年数